
北野武「報知に殴り込まなくてよかった」
第16回(1991年12月27日)@赤坂東急ホテル(東京・赤坂)
「あの夏、いちばん静かな海。」の北野武と「無能の人」の竹中直人が、ともに監督として、監督賞、新人賞にそれぞれ名を連ね、例年以上にタレントぞろいの表彰式となった。
たけしは「いやあ、あのとき報知に殴り込まなくてよかった」と第一声。「『戦場のメリークリスマス』(大島渚監督)に出たとき、カンヌ映画祭でグランプリを取りそうだと報知が取材に来た。翌日『楢山節考』がグランプリと聞いて、ガッツポーズした写真がムダになったとガッカリしたら、デカデカとその写真を使って『たけしぬか喜び』だって大見出し(笑い)。今度は(受賞が)本当でよかったぜ」と、毒満載で受賞を喜んでみせた。
たけしのオンステージは、これで終わらない。一部週刊誌で「エロティックな関係」で共演した宮沢りえとの深夜密会を報じられていた。表彰式には芸能リポーターも大挙押しかけ、矢継ぎ早に質問を浴びせかけた。しかし、たけしは「そう、愛し合ってるんだよ。ただ、あのお母さんがついてて『りえより私とどう?』なんて言うからな(笑い)。来年は後藤久美子とスキャンダル起こすからご期待下さい」と“舌好調”ぶりを発揮して、爆笑を誘った。「エロティック-」に主演し、たけしとりえの2人を引っ張り込んだ張本人の内田裕也も祝福に駆け付けた。
主演女優賞の工藤夕貴は、同部門最年少の20歳で獲得。受賞作「戦争と青春」は、名匠・今井正監督が9年ぶりにメガホンを執った作品なら、工藤にとっても89年の米映画「ミステリー・トレイン」(ジム・ジャームッシュ監督)以来のスクリーンだった。現代の高校生・ゆかりと、戦時中の伯母の若き日の2役を自ら志願。「台本をもらった時点では2役じゃなかった。現代っ子のゆかり役だろうと思って読んでいたら、監督がやらせたいのは伯母さんの方で、じゃあいっそ2役やらせてくださいって私から頼んだんです」
その今井監督は11月22日にクモ膜下出血のため79歳で逝去。工藤は告別式で、「輪廻転生が本当なら、どうか早く生まれ変わって。それまで私はおばあちゃんになっても女優を続けます」と弔辞を読んで号泣した。晴れ着姿で臨んだ表彰式も、今井監督の話題になると「言葉数の少ない監督でしたから『工藤クン、よかったね』って言うんじゃないかな。一緒に喜んでほしかった」としんみり。思い入れの深い受賞になった。
また、この年からイラストレーター・和田誠さんデザインのブロンズ像のほかに賞金50万円が授与されることになった。
第16回の受賞者・受賞作
- ■作品賞
- 「息子」山田洋次監督
- 「1970年に『家族』という映画を撮り、その続編のつもりでを撮った。あれから20年、日本という国はこんなにも変わってしまったという、ため息をつくような思いを観客と共有したかった」
- ■監督賞
- 北野武「あの夏、いちばん静かな海。」
- 「三船敏郎、仲代達矢主演のお笑い映画ってのを昔からやりたかった。相手にされないのがオチだと思ってたけど、監督賞だって言えば何とかなるかもな」
- ■主演男優賞
- 永瀬正敏「息子」「アイ・ラブ・ニッポン」「喪の仕事」
- 「マネジャーから『主演男優賞おめでとう』と言われて、えっ、という感じで驚きました。この知らせの後、風邪の方も具合が良くなって」
- ■主演女優賞
- 工藤夕貴「戦争と青春」
- 「亡くなった今井正監督が、賞をくださったと思う。出来れば亡くなる前に報告したかった」
- ■助演男優賞
- 神戸浩「無能の人」
- 「役者としてデビュー10年目ですが、映画はまだ2本。それなのに賞をもらうのはただ役に恵まれただけ」
- ■助演女優賞
- 風吹ジュン「無能の人」
- 「私にも代表作ができたという感じ。今まで肉体派の印象が強かったでしょ。だから今回の受賞はすごくいいチャンスだと思う」
- ■新人賞
- 石田ひかり「ふたり」「あいつ」「咬みつきたい」
- 「1か月、ロケ先の尾道に出かけ、撮影が生活そのものでした。主人公になりきって芝居が自然になじんできたんです。いい体験でした」
- 竹中直人監督「無能の人」
- 「地味に公開されて、地味に終わる作品と思ってた。最初は『変態家族』って題でひたすら暗い家族を撮ろうとした」
- ■海外作品賞
- 「羊たちの沈黙」ジョナサン・デミ監督
