
監督賞の初受賞者は「それから」の森田芳光監督
第10回(1985年12月26日)@東條会館(東京・半蔵門)
スタートから10年がたち、この年から新たに監督賞が新設された。
作品賞と同時に初代監督賞も受賞したのは「それから」の森田芳光監督。黒澤明監督の「乱」に「花いちもんめ」(伊藤俊也監督)、さらにこの年から始まった東京国際映画祭のグランプリ「台風クラブ」(相米慎二監督)、大林宣彦監督の尾道三部作のラストを飾った「さびしんぼう」、10月に亡くなった浦山桐郎監督の遺作となった「夢千代日記」、自らの作品をリメークしこの年の興行成績1位となった市川崑監督の「ビルマの竪琴」と話題作が相次いだ中で、堂々の2冠になった。
「それから」は「家族ゲーム」で一世を風靡した森田監督と松田優作の組み合わせ。最初はアクションものの企画が持ち上がっていたが、夏目漱石の古典という意外なものに落ち着いた。しかし監督は撮影時から、「日本じゃ文芸作品というと市川崑さんとかいわゆる巨匠の専売特許みたいに思われてる。若手が新しい感性で撮ること自体、意義があると思うんです」と自信たっぷりだった。その結果が、報知映画賞とキネマ旬報ベスト・テンでの作品、監督賞の2冠。「『家族ゲーム』で各賞を受賞したプレッシャーがなければ『それから』は生まれなかった。今度の賞でさらにプレッシャーは増えるでしょうが、それをものともしない豪快な監督になりたい」重圧を楽しんでいるかのような受賞コメントがまた、森田監督らしかった。
主演女優賞は「恋文」(神代辰巳監督)、「生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言」(森崎東監督)の倍賞美津子。第8回の助演女優賞に続く2度目の報知映画賞になった。特に「恋文」は夫が心を寄せる女性に嫉妬しながら、何とか夫をつなぎとめようとする複雑で微妙な女心と現代女性のたくましさを的確な演技で表現。「でも演じていて辛かった。こんな体験初めてよ。ドラマの設定が自分の実像とダブるでしょ」初受賞時は夫・アントニオ猪木への感謝の言葉を口にした倍賞だがこの2年後、離婚した。
主演男優賞の北大路欣也と助演女優賞の三田佳子は、「春の鐘」(蔵原惟繕監督)で夫婦を演じてうれしいダブル受賞に。ちなみに北大路にとって三田は63年の映画「海軍」で「僕が初めてキスした思い出の女性」とか。しかし、表彰式では三田の夫・高橋康夫さん(当時・NHK大阪放送局制作部副部長)が単身赴任先からサプライズ登場。倍賞にうながされた三田は、照れながら壇上でキス! 「もうショックで涙が出てきたくらいよ」と幸せと喜びでいっぱいの様子だった。
第10回の受賞者・受賞作
- ■作品賞
- 「それから」森田芳光監督
- 「この作品は主演の松田優作とスタッフが先に決まり、脚本はあと。スタッフの苦労に報いたいと思ってたので受賞は何よりうれしい」
- ■監督賞
- 森田芳光「それから」
- 「今日おとなしいのは、神代(辰巳)さんや蔵原(惟繕)さんら大先輩を前にして恐れおおくて」
- ■主演男優賞
- 北大路欣也「火まつり」「春の鐘」
- 「実は悩みましたよ。前の作品が『空海』だったでしょ。どうすればいいのか、がむしゃら、無我夢中っていうのはこのことだった。こういう賞が自信をつけてくれ、磨いてくれるんです」
- ■主演女優賞
- 倍賞美津子「恋文」「生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言」
- 「来年は私も40歳でしょ。人生どうせ一回きりだから、思いきりやりたいことをやるけど、映画は『やったわ』という気持ちにさせてくれる。報知映画賞は的確だと思ってきたし、だから余計にうれしいのよ」
- ■助演男優賞
- 三浦友和「台風クラブ」
- 「(山口百恵夫人には)まだ知らせてないが友達から聞いて喜んでいるはず。でも彼女は賞はもらい慣れているからね。二男が生まれただけでうれしかったのに、こんな賞まで。今年はいい年でした」
- ■助演女優賞
- 三田佳子「春の鐘」「Wの悲劇」
- 「『春の鐘』は(緒形拳、いしだあゆみが撮影直前に降板して)急にきた仕事でしたが、私が決まらなければ映画自体がつぶれてしまうところで、映画で育てていただき、また映画を愛する者の1人として、休みを返上してお引き受けしたんです」
- ■新人賞
- 門田頼命「愛しき日々よ」
- 「自分でもあのときのエネルギーは、ようあんなに噴き出たなあと今でも思う。2年ぶりに音楽活動を再開したばかり。映画は、タイミングが合い、ムードが感じられればまたやってみたい」
- ■特別賞
- 千秋実(「花いちもんめ」の演技に対して)
- 「体が強くないから朝9時から夕方5時までのスケジュールなら、と条件付きでお受けした。実際はずいぶんこき使われたけど(笑い)。自分ではよく倒れずにやれたなと思うくらい」
- ■海外作品賞
- 「刑事ジョン・ブック/目撃者」ピーター・ウィアー監督
