
にぎやかな「お葬式」 伊丹十三監督が夫婦で受賞
第9回(1984年12月27日)@東條会館(東京・半蔵門)
「国士無双」(32年)などで知られる戦前の巨匠・伊丹万作監督を父に持つ俳優・伊丹十三が初監督した「お葬式」が、3部門を制した。父親が亡くなりあわてふためく身内の様子をコミカルに描き出した人間喜劇は、前年に亡くなった妻・宮本信子の父の葬儀にヒントを得て、3日間で脚本を書き下ろしたもの。キャストはベテランぞろい、派手なアクションシーンもなしとあって、「損をしたらマンションを売ろう」と覚悟して撮影に入った。
しかしクランクインすると、当日から堂々たる監督ぶり。主演した山崎努は、「役者の心理とか生理が全部分かってるから、自分の狙いを説明するのがすごいうまい。伊丹さんらしく筋が通ってて、想像通りの演出ぶり。さすが血は争えないね」と評した。
表彰式には、助演女優賞に輝いた菅井きん、特別賞の宮本に加え、奥村公延、友里千賀子も祝福に訪れた。さらに江戸屋猫八は劇中さながら葬儀屋の衣装で駆けつけ、会場をにぎわした。
そんな中でも光り輝いていたのは、報知映画賞初受賞となった吉永小百合だ。翌年3月に40歳の誕生日を控え、それまでの優等生のイメージから脱皮した。「天国の駅」(出目昌伸監督)では女優生活でも初めてという殺人犯役に挑戦。不能の夫との生活に悶々とし、満たされぬ思いから若い警官(三浦友和)に体を許してしまう場面や、2番目の夫(津川雅彦)に後ろから犯されるシーンなど、サユリストにとってはショッキングな映像の連続。市川崑監督と組んだ「おはん」でも背徳に生きる女を味わい深く演じた。
吉永にとって、この年は演技以外でも変化の年だった。15年ぶりに歌手としてレコーディング。私生活でも夫・岡田太郎さんの十二指腸潰瘍(かいよう)、血清肝炎による2度の入院があり、仕事と看病に明け暮れた。だが、それが吉永の人間的な幅や芸域を広げる結果になったようだ。表彰式、黒のドレスに身を包んだ吉永が登場すると一際大きな拍手が会場を包み込んだ。
また受賞者に贈られるブロンズ像のデザインを手掛けたイラストレーターの和田誠氏が初監督作「麻雀放浪記」で新人賞に。伊丹監督から「まるでブーメランだね」と冷やかされながら、同作で「役者人生45年で初めての賞」という助演男優賞を獲得した高品格と壇上で喜びを分かち合っていた。
第9回の受賞者・受賞作
- ■作品賞
- 「お葬式」伊丹十三監督
- 「夫婦で受賞なんて。CMではあったが、まさか映画でね。一生であんな楽しい30日間はなかった」
- ■主演男優賞
- 時任三郎「海燕ジョーの奇跡」
- 「言われたときは『あれっ』と思った。新人賞の間違いじゃないでしょうね。うれしいです。同時に責任も感じます。後者の方が大きいですね。もっと実力をつけなくちゃ」
- ■主演女優賞
- 吉永小百合「おはん」「天国の駅」
- 「毒のある役をやりたくなったんです。女の怖さみたいなのを、少しでも出していけたら。来年からは、今度は男勝りみたいな、コメディーっぽいのをやってみたいんです」
- ■助演男優賞
- 高品格「麻雀放浪記」
- 「400本以上に出ましたかね。何度殺されたか。頑固で不器用のまま通してきたが、ほかの人から『お前、それでよかったんだよ』と認められた気がする」
- ■助演女優賞
- 菅井きん「お葬式」
- 「いつもワンシーンに出るだけの私が、初めて出づっぱりの役をいただき、それにこんな賞まで」
- ■新人賞
- 和田誠監督「麻雀放浪記」
- 「まさか自分が(ブロンズ像)を手にするとは。プロの第一歩で新人賞。ということは、これでサヨナラというわけにはいかなくなるでしょうね」
- ■海外作品賞
- 「ナチュラル」バリー・レビンソン監督
- ■特別賞
- 宮本信子(「お葬式」の演技に対して)
- 「(夫・伊丹十三監督と)あうんの呼吸で演技の飲み込みも早かったのが良かったのかしら」
