コラム
薬師丸ひろ子ゾーン

- 懐かしい歌声を披露する薬師丸ひろ子。身ぶり手ぶりがなく、左腕をまっすぐ伸ばして行儀良く歌うスタイルも当時のままで安心しました
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映画「今度は愛妻家」(行定勲監督)の公開(16日)を記念して行われた薬師丸ひろ子の20年ぶりのコンサートをのぞいて参りました。グランドプリンスホテル赤坂の宴会場はびっしりイスだらけ。1150席あったのですが、ホテルの方もよくこれだけ並べ、終わって片付けるのも大変だろうな、と入った瞬間、余計なことを思いました。
41歳の行定監督は自身を含め、会場に集まった人々を彼女の歌と映画で青春の思い出を重ね合わせられる「薬師丸ゾーン」なのだと力説していました。感心したのは、出演映画の名場面で編集されたオープニング映像。「セーラー服と機関銃」のクライマックスシーンはもちろんですが、冒頭はデビュー作「野性の証明」の名ぜりふ「お父さん、こわいよ。何か来るよ。大勢でお父さんを殺しにくるよ」から始まり、ファンならあのシーンあるかな?という場面を外さず編集。追憶のタイムマシーンに乗せてくれ、一気に懐かしさに引き込む構成でした。
興味深かったのは、一世風靡(ふうび)した元アイドルのコンサートで、最初から最後まで、盛り上がっているのにスタンディング現象が起きることなく、アンコールを迎えたことでした。「薬師丸ゾーン」はノリを優先させるよりも、じっくり聴き入り、心ゆくまで自分と対話しながら追憶に浸りたい、ということだったのでしょうか。観客の中には、両手をグー!にして聴いている人や微動だにせず、一点を見つめて歌を口ずさむ人も。いまでいうアキバ系的なタイプの一部に見受けられる一心不乱型の人も20年たつと、こんな感じになるのかしら?などと思ったりもしました。
しかし「セーラー服と機関銃」を生で聴いた時は、鳥肌が立ちました。「セーラー服~」は中学1年の時、京都の新京極の映画館で自分のお小遣いで初めてみた映画です。仕事で駄作を見続けて疲れ、映画への好奇心が薄れた時や、原点に立ち戻るために年の初めに見直すことにしている1本でもあります。ビデオはすり切れ、DVDを買い直し、ほぼすべてのシーンとせりふを思い出せるほど見てきましたが、それでも見る度に必ず新しい発見があります。
もし相米慎二監督がご存命なら、聞いてみたかったことは山ほどありますが、それはもう叶いません。ヒロイン星泉が亡きがらに初めてのキスを捧げたり、渡瀬恒彦と風祭ゆきの濃厚なラブシーンなど13歳の私には刺激が強すぎ、めまいを起こしました。やくざの大ボス「ふとっちょ役」の三国連太郎や怪しい刑事役の柄本明など演技のすごみに初めて圧倒されたのも、この作品でした。
ホモ風のキャラだった大門正明、足を銃で打ち抜かれ、激痛でのたうち回る寺田農、不気味な刑事役だった斉藤洋介。ヒロインのボーイフレンドグループの柳沢慎吾や光石研などなど。芝居好きにはこたえられない配役でした。自分でお金を払って初めて見た映画は「演じるとはなんぞや?」という疑問を突きつけたのでした。同時に映画には人生を変えてしまうほど大きな力があることを知ったのです。
さて、今回訪れた方のどれだけの人が「今度は愛妻家」をご覧になるでしょうか。大事な思い出に浸るだけでしょうか。新作は見応えある佳作に仕上がっています。映画はおそらく、女性よりも男性がボロ泣きしてしまいそうな予感がします。ひょっとして20年の月日という現実を受け入れる小さな覚悟めいたものも必要なのでしょうか。果たして自分自身は、この20年でどこまで成長し、変わることができたのか。コンサートは「時の流れ」というものについて改めて考えさせてくれたのでした。
コラムニスト
- 内野小百美
- うちの・さゆみ
- 1967年8月27日、京都府生まれ。武庫川女子大卒。91年報知新聞大阪本社入社。運動部を経て92年文化部配属。吉本興業、宝塚歌劇団などを担当。2000年、東京文化部転勤後は主に映画・演劇を取材。現在は芸能デスク。あねご肌ではないが、同じ部の後輩に「さゆみ姉さん」と呼ぶ者も。
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